大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)250号 判決

記録に顕われた原審公廷における証人山岸長作(第一、二回)、同加藤金蔵、同星野喜一郎(第一、二回)、同滝沢国治、同松岡軍治、同村上欣一、同中村鉱三、及び被告人の各供述内容並びに執行吏山岸長作作成の有体動産差押調書、同昭和二十三年十二月二十日附及び昭和二十五年十二月二十五日附各点検調書の各謄本及び甲府地方裁判所谷村支部の判決の謄本(主文及び理由の部分を除く)の各記載を総合すれば、次の事実を認めることができる。

即ち、執行吏山岸長作は、宮下清次郎の委任により、昭和二十三年十一月二十七日山梨県北都留郡大月町花咲にある星野喜一郎所有の工場(同年十月頃まで城北工具製造株式会社大月工場として作業していた所)において、公証人の作成した債権者宮下清次郎、債務者城北工具製造株式会社間の公正証書の債務名義に基き二馬力モーター附属品一式附二台その他の有体動産を差し押さえ、右工場内部の板に貼紙をして該差押の公示をし、同工場の工場長であつた加藤金蔵に右有体動産の保管を委ねた。しかし、右物件は、既に被告人が右会社から譲り受けたものであつたから、被告人は、直ちに、該物件が既に右会社から譲り受けて引渡を受けた自己の所有物なることを主張して右宮下清次郎に対し甲府地方裁判所谷村支部に執行の目的物に関する第三者の異議の訴を提起して争い、同年十二月四日その執行停止の決定があつたものである。そして、右工場は、つとに作業を廃し、解散状態にあつたものであるが、昭和二十四年三月九日頃右差押動産の保管者たる前記加藤金蔵は執行吏に無断で静岡県下に引き越し、その後は、該差押動産の保管者を欠くに至つた。かかる情況下において、被告人は、自己の所有物の盗難或は毀損を防ぐ意図のもとに、昭和二十四年八、九月頃右差押動産中の二馬力モーター二台を自宅に運搬して保管するに至つたものである。

右のような認定事実について考察すれば、右モーター二台は、前記差押により執行吏の占有に帰しても、執行吏はその保管を加藤金蔵に委ねたものであり、右加藤金蔵は昭和二十四年三月中無断で静岡県下に引き越し、その後はその保管者を欠くに至つたことは前示のとおりであるから、本件行為当時においては、右モーター二台は刑法第二百四十二条にいわゆる「他人の占有に属し又は公務所の命に因り他人の看守したるもの」には当らないものと言わなければならない。また仮りに、本件行為当時において、右モーター二台が依然執行吏の占有に属しているものとしても、被告人がこれを自宅に運搬したのは、前示のようにその盗難又は毀損を防ぐためこれを保管しようとする意図に出たものであつて、右差押の効力を排してこれを自己の物としてその経済的用法に従い利用又は処分しようとする意図に基くものではないと認められるから、被告人の所為は、この場合においても不法領得の意思を欠くものと言わなければならない。

原判決は、本件犯罪の構成案件に関する叙上説示の前段の点には触れていないけれども、被告人に領得の意思がなかつたものとしてその無罪を言い渡したものであつて、叙上説示の後段の見解に当るものと解されるから、検察官所論のような判決に影響を及ぼす事実の誤認があるものでないことは言うまでもない。

検察官の論旨は、理由がない。

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